運送業を営む企業にとって、倉庫業への進出は「物流一括サービス」の提供という大きな強みを手に入れるチャンスです。荷主のニーズが多様化し、納期や在庫管理の精度がより厳密に求められる今、単なる輸送だけではなく保管・流通加工・在庫管理などをセットで担える企業が、より高い付加価値を提供できる時代に入っています。
この記事では、運送業から倉庫業に進出するための道筋や必要な準備、メリット・注意点を詳しく解説します。
なぜ運送会社が倉庫業へ進出するのか?
かつては「モノを運ぶ」ことが物流の本質でしたが、現代では「モノを効率よく流す」ことが求められています。特にEC市場の拡大により、小ロット・多頻度の配送や返品対応など、運送と保管を一体化させた物流サービスへのニーズが高まっています。
◎ 荷主からの要望:「保管から配送まで一括でお願いしたい」
◎ 収益の柱を分散化:「運送だけでは薄利、倉庫で安定利益を」
◎ 配送効率の最大化:「中継地点として自社倉庫を活用」
このような背景から、運送会社が自ら倉庫を持つことは「物流インフラとしての強化」そのものなのです。
倉庫業と運送業の違いとは?
項目 | 運送業 | 倉庫業 |
---|---|---|
主な役割 | 荷物の輸送(時間重視) | 荷物の保管・管理(空間と時間の提供) |
利益構造 | 距離・回数ベースで収益 | スペースと時間ベースで収益 |
規制 | 道路運送法(緑ナンバー取得) | 倉庫業法(登録制) |
必要な人材 | ドライバー | フォークリフトオペレーター・管理者 |
特に注目すべきは「収益構造の違い」です。運送業は走行距離・回数に依存しますが、倉庫業はスペースを“時間貸し”する安定収益モデルともいえます。
倉庫業を始めるために必要な準備
① 土地・物件の確保
- 立地は重要。主要幹線道路やインターチェンジ近くが理想
- 元運送拠点や遊休地の有効活用も選択肢
② 建屋の仕様確認
- 温度管理(冷凍・冷蔵)、床荷重、天井高、シャッターサイズ
- セキュリティ設備(監視カメラ・施錠)
③ 人材と教育
- フォークリフト資格保持者
- 在庫管理システム(WMS)導入と運用教育
登録や許認可について
倉庫業を営むには、以下の手続きが必要です。
- 倉庫業法に基づく登録(国土交通省管轄)
- 普通倉庫、冷蔵倉庫などの種類ごとに条件が異なる
- 建物の構造、耐火性、防水性などの基準あり
- 消防・衛生関連の届出
- 消防法による適合調査
- 食品を扱う場合は保健所の指導も
また、「倉庫業」ではなく、「自家用倉庫」として自社の荷物だけを保管する場合は登録不要です。ただし、外販(保管料を取る)するなら必須です。
倉庫業のメリットと可能性
◎ メリット
- 安定収入:賃貸モデルで定期的な収益が見込める
- 物流全体の効率化:中継・積み替え・保管を自社内で完結
- 荷主との関係強化:ワンストップ対応で他社との差別化
◎ 将来性
- **3PL(サードパーティ・ロジスティクス)**への進化
- 流通加工・セット組み・返品処理など新サービスの追加
- AI・ロボットによる省人化、自動化倉庫への対応も視野に
実際の成功事例
■ A運送(埼玉県)
元々10台のトラックで地域配送をしていた会社が、自社敷地に200坪の倉庫を新設。地元の食品メーカーの在庫管理と配送を一括受注し、売上の約40%が倉庫収益に。
■ B物流(大阪府)
EC向けの中継倉庫を開設。ピッキング・検品・発送代行まで一貫して対応し、1日300件以上の出荷処理を行う。元請企業との関係が強化され、契約単価が倍増。
最後に:物流業の未来は“トータルサービス”
人手不足・燃料費高騰・働き方改革など、運送業界を取り巻く環境は厳しさを増しています。その中で生き残るためには、単なる運送会社ではなく**「物流の総合支援パートナー」**へと進化することが求められます。
その第一歩が「倉庫業への進出」です。リスクもありますが、それ以上に可能性と価値が広がる未来への投資と言えるでしょう。
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