はじめに
運送業界で独立・起業を志す方の多くが、最初にぶつかる大きな壁。それが「緑ナンバー(一般貨物自動車運送事業の許可)」の取得です。
この緑ナンバーを取得するには、膨大な書類作成、物件の確保、車両や人員の準備、そして行政の審査を経なければなりません。しかし現実には、その前段階で**「グレーな運営」**に手を染めてしまう事業者が後を絶ちません。
本記事では、そうした背景と業界の実態、過去に行われてきた“グレー手法”の事例、そしてこれからの時代に求められる「クリーンな戦略」について徹底解説します。
1. 緑ナンバーとは何か?
緑ナンバーとは、正式には「営業用自動車登録(一般貨物自動車運送事業)」を意味します。
これがなければ、貨物を有償で運ぶ事業は原則禁止されています。
緑ナンバーの取得条件(2024年時点)
- 資金力:500万円程度の準備資金が必要
- 車両台数:最低5台以上の営業車両を保有
- 営業所:使用承諾のある事務所が必要(賃貸契約含む)
- 車庫:営業所から10km以内などの条件あり
- 運行管理者・整備管理者の選任
- 安全管理体制の整備
- 経営計画・収支予測書の作成
これらを整えた上で国交省の「法令試験」や「現地調査」を通過しなければ、緑ナンバーの許可は下りません。
2. 実際にあった“グレー”な起業スタイル
多くの事業者が、緑ナンバーを取得する前に以下のようなグレーゾーンの運営をしていたとされます。
事例①:白ナンバー営業(無許可の有償運送)
ある地方の元建築業者は、軽トラ1台で知人の引っ越しや荷物運搬を請け負い、報酬を現金で受け取っていました。
→これは完全な**道路運送法違反(第4条)**です。
白ナンバー車両で反復継続的に報酬を得る行為は「違法営業」に該当し、罰金や営業停止命令の対象になります。
事例②:ダミー会社や名義貸し
「資金が足りないから緑ナンバー取得は無理…」という声の中でよくあったのが、他人の名義で登録された会社を間借りして運送を始める手法。
例えば、
- 実態のない会社を設立し、許可だけ取る
- 既存の緑ナンバー会社の名義で仕事を請ける
- 場所や管理者が実態とかけ離れている
これはいわば名義貸し業者であり、違法性が高く、摘発対象となります。
事例③:黒ナンバー(軽貨物)を使ったカモフラージュ
軽貨物(黒ナンバー)で始めて、実態は1t車や2t車を運用。これは軽貨物の範囲を超えており、許可を逸脱した行為になります。
よくあるパターンは:
- 開業届と軽貨物届け出のみでスタート
- 大手ネット通販の下請けとして稼働
- 荷主と直接契約を交わすなどの抜け道
→一見合法に見えますが、内容によっては摘発リスクあり。
3. なぜグレーな方法に走るのか?
運送業に飛び込む人は「現場経験者」が多く、元請のドライバーや軽貨物委託の人間が「自分でもやれる」と感じて独立します。
しかし…
ハードルが高すぎる制度設計
- 最初から5台も車両をそろえるのは困難
- 営業所や車庫の物件契約もリスクが高い
- 書類作成や法令試験の負担が大きい
結果、「まずは現場で稼ぎながら準備しよう」という動きが広まり、グレーな運営に陥っていくのです。
4. グレー運営のリスクと代償
近年、国交省や各運輸局は違法営業に対して非常に厳しい態度を取るようになっています。
実際にあった摘発事例(国交省発表)
- 東京都内の白ナンバー事業者に対し、50万円の過料と営業停止命令
- 関西圏で名義貸し業者の摘発。荷主にも行政指導
- 黒ナンバーで大型車運行→警察との合同調査で停止処分
いずれも、「最初はバレないと思っていた」「軽い気持ちだった」という声が聞かれます。
しかし今や運行管理システムやドライブレコーダーなどで監視は徹底されており、逃げ道はほぼありません。
5. 今こそ“クリーンな運送会社”が選ばれる時代
2024年以降の物流業界は、以下のような流れになっています。
- 労働時間規制(いわゆる「2024年問題」)により、輸送効率が重視される
- SDGs・コンプライアンス意識の高まり
- 大手荷主が取引先の“適法性”を厳しくチェック
- SNS時代における炎上リスクの拡大
つまり、「安かろう、早かろう」ではなく**「きちんとした会社」しか生き残れない時代**に突入したのです。
6. 正攻法で緑ナンバーを取る戦略
「じゃあ、どうすればいいのか?」
今から運送業を始めるなら、最初から緑ナンバー取得を前提とした設計が必要です。
段階的なロードマップ例
- 軽貨物(黒ナンバー)で個人事業として経験と資金を積む
- 荷主と関係性を構築し、将来の契約ベースを形成
- 資金計画を立て、物件や車両の目処を付ける
- 信頼できる行政書士と組んで書類を準備
- 法令試験に備え、対策講座などを受講
- 緑ナンバー申請 → 審査 → 許可
※最近では「緑ナンバー取得サポート業者」も多数ありますが、実績と信用のある専門家を選ぶことが重要です。
7. 緑ナンバー取得後の世界
実際に許可を取得した事業者からは、以下のような声が聞かれます。
- 「信用がまったく違う。法人営業がしやすくなった」
- 「融資やリースの審査がスムーズになった」
- 「従業員を採用しやすくなった」
- 「補助金や助成金の対象になった」
つまり、緑ナンバー取得は「ただの通過点」ではなく、成長企業としてのスタートラインに立てる証明でもあるのです。
まとめ:もう“グレー”に頼る時代は終わった
過去には、多くの運送会社がグレーな手法からスタートし、それが“当たり前”とされていた時代もありました。しかし、今やそれは通用しない・危険な選択肢になっています。
これから生き残るのは、最初から正攻法で構築された“クリーンな運送会社”だけです。
業界の常識が変わる中、あなた自身の考え方もアップデートする必要があります。
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